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主教からのメッセージ

アンデレ便り8月号:剣を取る者は皆、剣で滅びる

2014年8月1日

 7月1日の聖ミカエル大聖堂早朝聖餐式で、犠牲者が2000人以上といわれております、呉市街地夜間無差別大空襲で亡くなられた人たちのために祈りが献げられましたが、脳裏に小畑得右衛門さんの名前が浮かんできました。

小畑さんの無念

 広島復活教会信徒の小畑さんは、戦後、広島で印刷会社を興し、教会月報を無料で印刷してくださったり、聖公会カレンダーの印刷を格安で引き受けてくださった方です。「こんにちわ」と印刷屋にお邪魔しますと、薄暗い土間右の机に座っている小畑さんは大歓迎、最低1時間は色々な話を拝聴することになります。あるとき、ご自身の体験を記した参戦記を上梓し、それを私に贈呈してくれました。小畑さんは、銀輪部隊に加わってシンガポールを攻略し、その後、ニューギニアに転戦しました。しかし、連合軍の優勢な戦力の前に日本軍は次第に制海権・制空権を失って敗戦を重ね、熱帯雨林を通っての退却を余儀なくされました。そこに待っていたのは、熱帯性の感染症と飢餓による栄養失調でした。ニューギニアに上陸した20万の日本軍将兵のうち、生還者はわずかに2万名に過ぎず、そのなかの一人が小畑さんでした。
  終戦となり、復員船に乗った小畑さんの心の支えと人生の希望は、妻と子どもたちとの再会でした。無事に呉に到着しましたが、船から見る呉の街は一面焼け野原でした。自分の家は消失しており、近所の人に妻子の消息を訊ねますと、妻と子どもたちは、空襲警報が鳴り防空壕に逃げ込みましたが、焼夷弾の直撃を受けて亡くなったという悲報でした。奥様の梅子さんですが、結婚する前は神戸教区の婦人伝道師であり、広島復活教会信徒・有田喜太郎さんの姉さんに当たるかたでした。

有田喜太郎さんの悲しみとコールマン司祭の憤り

 呉空襲から約1か月後の8月6日、広島に原爆が投下されました。有田喜太郎さんは、兵隊にいっておりましたが、骨と皮になって、焦土と化した広島市内の自宅にたどり着きますと、家族の者たちは全員死んでいたのです。奥様はきれいに焼けておりましたが、子どもは庭に転がっており、我が子を抱いたとき、本当の信仰に触れたと、神のおとづれに書いております。その後、教会再建に尽力され、教区の自給促進委員長として、教区の財政的自給のために貢献されました。
  1957年7月3日に逝去されたロバート・コールマン司祭は、戦中、海兵隊員としてテニアン島で日本軍と戦っている最中、「我々は汚れきった慢心と国家的虚構の泥沼の中を彷徨っているのらくら者なのだ。ドイツと日本の悪は、我々の悪でもあるのだ。」と、戦争によって人間がどれだけ醜くなるかを姉への手紙で告白しました。  戦後、コールマン司祭は、学士入学したジョンズ・ホプキンス大学で心理学を学び、神戸教区へ宣教師として赴任しました。敗戦により、心に痛手を負って苦しんでいる多くの日本人に救いの手を差し伸べるためでした。私は3、4歳の頃、下関でコールマン司祭に初めて会いましたが、映画鑑賞を通して日本語を習得し、徳山の教会創設のために尽力されました。墓碑には「彼の信仰と、愛とあわれみによって、彼は永遠なるものをわれらにもたらした。」と記されております。

戦争は正当化されるか

 安倍首相主導のもと、憲法9条を解釈して、集団的自衛権を閣議で決定しました。日本はこれまで、憲法に抵触するとして、ベトナム戦争やイラク戦争には直接参戦しませんでした。しかし、今後、憲法解釈変更によって、友好国から「show me your flag」と言われれば、参戦を断ることが果たしてできるでしょうか。
  イラク戦争に対して、ローワン・ウイリアムス・カンタベリー大主教はこれに強く反対しましたが、開戦に反対したフランスは、米英から卑怯者として、罵倒されました。しかし、大義なき戦争が明白となり、英国では、2003年のイラク戦争参戦に関する独立調査委員会の公聴会で、当時の首相ブレア氏は証人喚問されました。
  そのイラクでは、大規模戦闘が終結した2003年から2014年まで、約13万人の民間人が亡くなり、約4500人のアメリカ兵が戦死し、8000億ドル(約80兆円)を浪費した後、アメリカはイラクから撤退しました。その後、治安は良くなるどころか、悪化の一途をたどり、今年6月の1か月で、約2500の人命が失われ、ISIS(イラク・シリアのイスラム国)と名乗る過激派組織がイラク北部を制圧するという有様です。
  イラクで儲けたのは軍需産業、傭兵産業だけで、国家としては赤字を増やし、米軍の醜態を晒してしまいました。

 コールマン司祭の逝去記念礼拝の説教で、アメリカ聖公会日本代表部のケネス・ハイム司祭は、「私たち人間は、家族を愛する愛、友人を愛する愛を持っていても、しばしば全世界に対する愛に欠けています。前の戦争においては私もコールマン司祭も従軍して、日本の人びとを殺す戦いに参加し、また、日本の人びとも、我々アメリカ人を殺すために戦ったのです。このようなことは、私どもに、全世界を愛する人類愛が全く欠けていたためなのです。神はこの私をも、ここにいるあなたがた一人ひとりを愛したもうのです。世界中から嫌われている、と思っている人も神は愛してくださっているのです。これはグッド・ニュース、良き訪れの福音であり、私もあなたがたも、コールマン司祭も、これを良く知っておりますから、他の人びとにそれを伝えなければならないのです。」と述べました。